和解契約書・示談書

新和解技術論 ― 和解は未来を創る 単行本 – 草野芳郎

 著者は元裁判官。裁判に訴えれば、「判決」で勝ち負けが決まるという認識であったが、実際は「和解」で解決する事も多いという。はしがきには、当事者の未来を見て妥当な解決を目指すと書いてあり、判決の後、控訴、上告と何年もかかるより、和解で裁判を終結させる方が、当事者は争いを終らせて次に進める。

 和解が目指すものは、「条理にかない実情に即した解決」と著者は定義している。和解は、将来の影響をも考慮した妥当な解決案を作る事が可能。裁判官は、いつでも和解を試みる事ができると(民訴法89条)書いてあり、訴えたからといって、和解を拒否して判決を求めなくては、勝ち負けの二者一択にはならないようだ。

 いずれにしても対話が大事で、対話ができている内なら自然治癒力(自主解決能力)が備わっているという。当事者が対話を尽くせば和解に至る事件の方が多数で原則という。裁判所で和解すると和解調書として纏まられ確定判決と同じ効力を生む。

 和解契約書・示談書は、調停や裁判に至らず対話で解決して、合意した内容を書面にして各自持っておきましょうという文書。

 なぜ話がついたのに書面にする?と思われる方もいらっしゃいますが、理由があります。まず時間が経つにつれて、過去の合意に不満を持つ方もいらっしゃるからです。「フェアな合意ではなかったな。こちら側に不利な内容だった。」蒸し返してきて、更なる話し合いを求めてくるなり、要求をしてきます。

 和解契約書・示談書を作ってないと、同じ事の繰り返しになります。文書があれば、解決済として、話し合いを拒否できます。なので文書の内容をしっかりしておく必要があります。

 また当事者同士の話し合いは、感情的にならず事実を告げ、思いを伝える。カーネギーの「人を動かす」によると、議論を避ける、誤りを指摘しない(相手の感情を傷つけない)、おだやかに話す、イエスと答えられる問題を選ぶ、相手にしゃべらせるだけしゃべらせる。相手の言い分をよく聞いて、合致点を拾う。ハーバード流交渉術では、人と問題を切り離せ、立場ではなく利害に焦点を合わせよ、複数の選択を用意せよ、客観的基準を強調せよ。

 納得のいかない話には合意せず、時間をあけるよう主張する。双方それぞれ言い分があるので尊重はする。自分の譲れるところ、譲れないところを予めラインを引いておく。そしてメインシナリオ、ハッピーシナリオ、バットシナリオを考えておく。誠実に対処して、誠実さが通用しない相手なら。代理人を立てる事を考え丸投げする。そしてその問題の精神的負荷を軽減する。

 本書58ページに「通常の紛争は、交通事故のような場合は別として、知らない人との間では起きないし、知っている人との間でも、信頼していない人との間では起きないのです。信頼してない人にお金を貸したり保証人になったりしないからです。信頼していた人との間で起きた紛争は、裏切られたという感情を発生させ、不信感を強く起こさせるのです。

 相互不信を解消し、信頼関係を回復させるには、不信を感じる根拠となっていることが、誤解やその人の考えすぎであったと気づいてもらうこと。誤解を解くと不信の壁に穴が開く。相互不信が緩和されると少しづつ信頼関係が回復する。著者は言う「和解はドラマだ」と

 過ぎ去った過去の大いなる苦痛よりも、未来の小さな苦痛の方が悩ましく感じている人が、未来の苦痛を取り除けば和解はうまくいくという。過去の問題として振り分けられるようにする事。

 和解の長所を考え、相手の逃げ道を塞がず、落としどころを考えておく事。

 判決は、過去の事実にそれより過去に存在している法律を適用して結論を出すもの。判決の確定力によりその蒸し返しをさせない事で、現在の紛争を終了させるものであり、未来への影響は間接的な効果を持つにとどまるものです。

 これに対して和解は、当事者双方が未来に実行する事を合意により約束するもの。和解は、直接未来につながるものであり、「未来を創る」ことができるのです。

 和解契約について民法695条に記されている。「和解は当事者が互いに譲歩をしてその間に存する争いをやめる事を約することによって、その効力を生じる。」

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