株式譲渡契約書(M&A)②

M&A契約――モデル条項と解説 単行本 – 2018/2/26 戸嶋 浩二 (著), 内田 修平 (著), 塩田 尚也 (著), 松下 憲 (著)

 対象会社が契約当事者でない場合、契約に規定する行為を行わなかったとしても、買主は対象会社ではなく売主に契約違反を追求することになる。売主が対象会社に契約にある行為をさせ、ある行為をさせないものとすると定めれば足りる。
 代表取締役がオーナー社長で、持ち株を売る事で、会社を売るという想定がシンプル。

前文・目的
 その契約がなぜ締結されるに至ったのかという経緯と当事者の意図について説明を加える事が一般的。

定義
 本契約で使用される以下の用語は、以下に定める意味を有する。(読む人によって用語の意味と解釈が違っていたりズレていたら、行き違いが生じて紛争になる恐れがある。)例えば、営業日というのは、日本において銀行の休日とされる日以外の日をいう。と定義しないと、うちの会社の営業日?向こうの会社の営業日?
 もう一つ「契約等」とは、契約、合意、約束又は取決め(書面か口頭か、また、明治か暗黙かは問わない)をいう。・・・こういう定義がないと、口約束は契約等に入らないのでは?とか、何かしらの兼ね合いで、「社会通念上」とか用語を出して争いになる可能性もある。

株式譲渡
 株式を譲渡する旨の規定は、本契約の根幹をなす必須の規定。本契約の規定(クロージングの前提条件を満たす事と保証表明)に従い売主より本件株式を譲り受ける。

譲渡価格
 双方がそれぞれ対象会社の企業価値を評価し、両者の協議・交渉によって決定される。純資産法、事業計画に基づくDCF法、類似会社法などを選んだりして売主と買主が合意した金額が譲渡価格となる。
 譲渡契約締結から株式譲渡の実行(クロージング)まで、企業価値の調査など時間的ギャップが数か月間ある。その間の財務、取引など対象会社に起きた事は譲渡価格に反映されていない。そこで様々な取り決めを経て譲渡価格を調整する。

クロージング
 まず前提条件が充足してないと延期、契約の解除となります。引渡しと支払を行わない事ができる(walk away)。例えば買手がグループで売上200億円、対象会社の買収金額が50億円を目安に独占禁止法の届出が必要になり、待機期間30日は譲渡ができません。届出義務は買手になります。あと海外が含むと外為法の事前届出が必要。
 前提条件が満たされていたら、日時、場所、株券の引渡し方法と支払方法(株券が発行されてない場合、株式名義書換請求書に売主が記名押印した用紙。それに買主が記名押印して対象会社に提出する共同申請です。)あと譲渡金額調整金の取り扱い(買主が追加で払うのか、売主が受取金額を下げるのか)を経てクロージングが完了します。

前提条件
 クロージング(株券の引渡しと対価の支払)を実行するために買主売主があらかじめすべき事、条件。例えば、表明保証が真実で正確であること。役所関係の手続きを終えてる事。対象会社の役員の辞任届をとっておく事。対象会社の契約の各相手側から契約維持の承諾を得ておく事。財務や収益に重大な悪影響が発生判明してない事。株式譲渡制限の会社は、取締役会(設置してなければ株主総会)の承認を得る事。買主有利な条項にファイナンスアウト条項がある。買主が購入資金の調達ができなかった場合、取引実行の義務を負わない。あとMAC条項、クロージング前に重大な後発事象が発生した場合、クロージングを実行しない事を認める条項。いずれにしても、買主の購入意欲によって、有利な条項を外して、買主の前提条件が重要でない部分が満たされなくても、前提条件を放棄してクロージングに臨める。
 買主が合理的に要請する文書の受取。例えば、役員辞任届、株式譲渡承認の取締役会の議事録など
 キーマン条項、取締役を送り込む為に辞任してもらわなければならない役員がいる一方で、会社の売上や運営に残ってもらわなければならない役員、技術者がいる。その人たちをキーマンと呼ぶ。クロージングまでに辞任していない事。
 差し押さえ命令の不存在など訴訟を係属してない事

表明保証
 日本の制定法には存在しない概念。違反しても契約不適合責任や債務不履行責任には当たらず、損害担保契約という位置づけ。株式譲渡契約上は、表明保証違反は、相手側の義務の前提条件不充足となり、取引の中止とすることができる(クロージング前)。クロージング後は保証対応。
 デュー・ディリージェンスの補完要素でもあるが、売主が情報開示をして、専門家が買収前調査をしても発見できない情報もある。取引の額に対して買収前調査(デュー・ディリージェンス)費用が過大な負担。それなら、売主に表明保証してもらって、後に違反があれば補償という形で解決しましょうという概念。
 個別に内容や範囲を正確に吟味検討をする必要がある。解釈や認識のズレが生じないよう文章には気をつける。また、内容が自分のコントロールが及ばない要素が入らざるを得ないと表明違反となり、契約違反につながり紛争から解除、補償となってしまう。
 対策としては、重要性、重大性の誓約、認識に基づく誓約(売主の知る限りにおいて・・・)、明示のされた表明保証以外については黙示の表明、保証はしていないという確認文言(類推解釈、反対解釈の排除)、開示別紙による表明保証からの除外(ここに書いてある事実は、保証しないという事)いずれにしても曖昧、抽象的な文言は、複数解釈を可能として、認識のズレを生み、紛争の種となる。
 
 設立・存続(ちゃんと法的な手続きを経て設立して運営してる会社ですよ)契約の締結及び履行、強制執行可能性、法令との抵触の不存在、許認可等の所得、倒産手続きの不存在、反社会勢力でない条項、株式の保有等、計算書類等(法に則って会計処理、申告納税してます。簿外債務はないです。重要な変更はありません)、法令遵守、資産(使用に支障が出る負担等はない。担保権が付されてる場合の表示、在庫は適正水準、債権に対して、不動産や知的財産など)契約等(契約は事業の根幹をなすもので、問題を抱えてないか)、人事労務(労組の存在、年金・福祉)、公租公課(滞納はないか、指導や調査が入ってないか)、保険、環境(処置命令が出されてないか)、紛争を抱えてないか

コベナンツ・誓約事項
 契約上の付随的義務にあたると解され、その違反は、保証条項が定められていなくても債務不履行責任を問われる。
 クロージング前に取引の前提条件に必要な行為が為される事を確認する。あよそ表明保証はクロージング「時点」の事、~であること(例えると静止画)。誓約条項は、株式譲渡契約締結からクロージングまでの「期間」をカバーする~すること、~しないこと(例えると動画)。
 当該事項を完全にコントロールできない場合は、「努力義務」として規定する。その強弱の表現もある。最大限の努力、合理的な努力など
 対象会社の運営に関する義務・・・クロージング前に銀行を含めあらゆる所から、借りれるだけ借りてクロージング日の前日を基準日として、2日後に株主に特別配当という形をとったり、表明保証をすり抜ける感じで、動産、不動産を処分して特別配当の原資の一部にしたり、第三者割当増資をしたり、されたらマズいので、事細かくやってはいけない事を決めておきます。例えば、定款変更しないで、株式関係は、売ったり、発行したりしないで、剰余金の配当とかしないで、お金回りの禁止事項が多い。また保証債務を負わないで、新規事業の予算を組まないで、とか誓約事項で止める。通常の業務に終始してくださいと
 他にも、株式の譲渡承認をしてください。法令に基づく手続きをしてください。(独禁法)、契約に基づき必要となる手続き(支配株主が変わっても契約はそのままでという他の相手側の確認)、買主側では、買収資金のファイナンスに関する義務(資金をちゃんと用意して下さいよ)、取引保護条項(交渉は独占で、手続きを進めてる最中、別の買主に売らないで)、デュー・ディリージェンスで発見された問題点の解消に関する義務、表明違反・義務違反・前提条件不充足の場合の通知義務(隠さないで通知してください、ただ通知したからといって対処しなくていい訳ではありません)まだありますが、異常がクロージング前の内容。
 次にクロージング後
株式譲渡が完了しても売主から買主への経営の移管には完全に完了しない。移行期間が必要。企業価値の毀損や雇用の維持等について、売手にも義務を課す必要。
 競合避止義務、勧誘禁止義務、雇用維持義務(買手)、年金・保険料移管義務(時間がかかるので双方の協力が必要)、派遣役員・従業員の責任免除、商号・商標等に関する義務(いつまでも商号を変えないと許諾したと誤解され名板貸責任が生じる可能性がある。連帯債務を負う)売主による情報アクセス(売却年度末の決算書を作成するのに必要な情報がある。

補償
表明保証違反、誓約事項違反その他義務違反は、債務不履行の損害賠償請求は、契約で補償に限定する合意とされる事が多い。契約で決めておかないと民法415条の損害賠償請求に話が移行してしまう。補償条項で金銭的救済処置を明確に決めておく。内容は、違反と損害の関係性を緩和して、補償の上限と下限を決めておく。下限値までの損害は補償せず、上限は、株式譲渡金額の〇%までとする。という建付け。統計的に下限が譲渡価格の0.5%、上限が10%。違反が意図的(willful)詐欺的行為(fraud)の時は上限が外される。これは、契約不適合責任の損害賠償の限定条項で、故意重過失の時を除いてと同じ考え方であろう。あと、補償の期間の限定。
 クロージング後は、契約の解除ができない場合が多いので、しっかり話し合って決めておく。

契約解除
 クロージング前までに表明保証違反、義務違反に重要な違反があった場合、倒産手続きの開始があった場合、〇日までに株式譲渡が行われなかった場合
 ブレイクアップフィー、売主が別の買主に売ってしまい、独占交渉義務に違反した場合など支払われる場合が多い。

救済手段の限定
 通常の損害賠償は、補償条項に限ります。という条項。

秘密保持条項(一般条項)

準拠法・管轄(国内同士なら日本の法律なので取決め不要。

譲渡禁止(契約上の地位)

変更修正(書面によりサインした者のみが変更可能。代表取締役がサインした契約書を、課長が電話口で変更できたら契約が不安定になる。)

完全合意(契約書に書かれたことが全て。事前に協議して交わした合意文書、覚書など効力を失わせる。)

通知(売主と買主の住所、電話、メルアド、ファックス)

第三者の権利(契約した当事者同士を拘束する。第三者の権利も義務も主張を受け付けない

誠実協議(一般条項))


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