和解契約書・示談書 ②

和解交渉と条項作成の実務 単行本 – 2014/12/2 田中 豊 (著)

地方裁判所では、判決が43.18%、訴訟上の和解が34.05%だという。裁判所に訴えれば判決で勝ち負けが決まると単純な話ではないようだ。

 和解契約書は、無効、取消しの瑕疵がないようにしなくてはならない。まず当事者が自由に処分できる権利でなくてはならない。民法の家族法の人事関係、会社法で決められてる事柄、境界確定(所有権のラインは当事者で決められる)、民事執行法での手続き、行政が絡んだ問題など。私法上の和解で公法上の決まりを変えられない。

 和解契約書が有効になるには、①法律行為の一般的有効要件を満たしている事(脅して作られたとか、成年被後見人や未成年が単独で登場すると注意。)②合意内容が実現可能であること(物理的、社会通念上履行不能)③合意内容確定している事(決めた後の履行に曖昧な部分があると解釈が分かれて止まってしまうおそれ)④合意内容が適法であること(私法で変えられない強行規定に牴触する内容、身分関係、利息制限法、借地借家法)⓹合意内容が公序良俗に反しない事(賭博の支払いの約束など)

 話し合い、交渉事。 各当事者には譲歩の上限がある。適正、合理的な上限を交渉の前提としてその他の点で工夫するしかない面もある。全体として互譲のバランスをとり、核、幹の部分を意識する。でないと拡散型になって話が広がってまとまらなくなる。合意に辿り着くまで交渉の手順に従って行うのが合理的。

  手控え作成。関係図、時系列表、争点表、事件のスジ。見えにくい話を理解しやすくする工夫。双方努力して乗り越えなければならない論点の整理。嘘や脅しは全て台無しになる。

 たとえ裁判上で和解しても、税務は別に展開される。知らなかったが、離婚の財産分与は、受け取った側が納税義務を負うのではなく、分与した渡した方に納税義務が生じる。なのでそれを踏まえた上で計算する必要がある。損害賠償も、心身に加えられた損害や突発事故の場合は非課税だが、遅延損害金、債務不履行などは課税される。弁護士費用も前者は含むことができても、後者の債務不履行には含まれない。

 和解条項。過去の事実と法律関係。確認の客体(対象)物権、債権を特定。清算条項。給付の客体、与える債務と為す債務、作為債務と不作為債務、特定物と不特定物。条件、期限、期限の利益喪失条項。解除権留保条項。

 ※個人間のお金の貸し借り、請負代金未払い、解雇問題、家賃滞納立ち退き、夫婦一方の不貞など裁判に至らず話し合いで解決して、和解契約書を作って終わりにしましょうという想定で依頼を受けさせていただきます。

 和解の原因となった事実関係を淡々と記し(相手を非難、責める内容とせず)、和解の結果、双方すべきことを記す。立会人を入れ3通用意し各自保有することにする。条項の解釈を巡って紛争が生じないようにわかりやすい表現で、認識を共通させる。

和解契約書・示談書

新和解技術論 ― 和解は未来を創る 単行本 – 草野芳郎

 著者は元裁判官。裁判に訴えれば、「判決」で勝ち負けが決まるという認識であったが、実際は「和解」で解決する事も多いという。はしがきには、当事者の未来を見て妥当な解決を目指すと書いてあり、判決の後、控訴、上告と何年もかかるより、和解で裁判を終結させる方が、当事者は争いを終らせて次に進める。

 和解が目指すものは、「条理にかない実情に即した解決」と著者は定義している。和解は、将来の影響をも考慮した妥当な解決案を作る事が可能。裁判官は、いつでも和解を試みる事ができると(民訴法89条)書いてあり、訴えたからといって、和解を拒否して判決を求めなくては、勝ち負けの二者一択にはならないようだ。

 いずれにしても対話が大事で、対話ができている内なら自然治癒力(自主解決能力)が備わっているという。当事者が対話を尽くせば和解に至る事件の方が多数で原則という。裁判所で和解すると和解調書として纏まられ確定判決と同じ効力を生む。

 和解契約書・示談書は、調停や裁判に至らず対話で解決して、合意した内容を書面にして各自持っておきましょうという文書。

 なぜ話がついたのに書面にする?と思われる方もいらっしゃいますが、理由があります。まず時間が経つにつれて、過去の合意に不満を持つ方もいらっしゃるからです。「フェアな合意ではなかったな。こちら側に不利な内容だった。」蒸し返してきて、更なる話し合いを求めてくるなり、要求をしてきます。

 和解契約書・示談書を作ってないと、同じ事の繰り返しになります。文書があれば、解決済として、話し合いを拒否できます。なので文書の内容をしっかりしておく必要があります。

 また当事者同士の話し合いは、感情的にならず事実を告げ、思いを伝える。カーネギーの「人を動かす」によると、議論を避ける、誤りを指摘しない(相手の感情を傷つけない)、おだやかに話す、イエスと答えられる問題を選ぶ、相手にしゃべらせるだけしゃべらせる。相手の言い分をよく聞いて、合致点を拾う。ハーバード流交渉術では、人と問題を切り離せ、立場ではなく利害に焦点を合わせよ、複数の選択を用意せよ、客観的基準を強調せよ。

 納得のいかない話には合意せず、時間をあけるよう主張する。双方それぞれ言い分があるので尊重はする。自分の譲れるところ、譲れないところを予めラインを引いておく。そしてメインシナリオ、ハッピーシナリオ、バットシナリオを考えておく。誠実に対処して、誠実さが通用しない相手なら。代理人を立てる事を考え丸投げする。そしてその問題の精神的負荷を軽減する。

 本書58ページに「通常の紛争は、交通事故のような場合は別として、知らない人との間では起きないし、知っている人との間でも、信頼していない人との間では起きないのです。信頼してない人にお金を貸したり保証人になったりしないからです。信頼していた人との間で起きた紛争は、裏切られたという感情を発生させ、不信感を強く起こさせるのです。

 相互不信を解消し、信頼関係を回復させるには、不信を感じる根拠となっていることが、誤解やその人の考えすぎであったと気づいてもらうこと。誤解を解くと不信の壁に穴が開く。相互不信が緩和されると少しづつ信頼関係が回復する。著者は言う「和解はドラマだ」と

 過ぎ去った過去の大いなる苦痛よりも、未来の小さな苦痛の方が悩ましく感じている人が、未来の苦痛を取り除けば和解はうまくいくという。過去の問題として振り分けられるようにする事。

 和解の長所を考え、相手の逃げ道を塞がず、落としどころを考えておく事。

 判決は、過去の事実にそれより過去に存在している法律を適用して結論を出すもの。判決の確定力によりその蒸し返しをさせない事で、現在の紛争を終了させるものであり、未来への影響は間接的な効果を持つにとどまるものです。

 これに対して和解は、当事者双方が未来に実行する事を合意により約束するもの。和解は、直接未来につながるものであり、「未来を創る」ことができるのです。

 和解契約について民法695条に記されている。「和解は当事者が互いに譲歩をしてその間に存する争いをやめる事を約することによって、その効力を生じる。」

PAGE TOP